革命時の宗教人の哀しみを思う…  プーランク:カルメル派修道女の対話
今回の作品は、重いです。980円で買ったとは思えないくらい、重い。
#いや、この作品、定価で買おうかどうか常に迷っていたチェックものだったのですが、作品が地味そうな気がして何となく手が出ていなかったのでした。
##その杞憂は、いい方向に裏切られていますのでご安心を。

作品の舞台は、フランス革命まっただ中のパリ。混乱する世の中を生きるには純粋で神経質すぎるブランシェは修道女になることを選び、カルメル派修道院へ。しかし、彼女の入門を許可した病床の院長は、間もなく「祭壇が割られ、汚されている〜」ととんでもない暴言を吐きながら死んでゆきます。やがて、修道院にも革命派の手が入り、修道女達は「旧体制の教皇の手先」として全てを没収され、解散を命じられます。新人ブランシェを逃がしたものの、行くあてがない他の修道女達は、「反体制的な集会を行っていた」ため捕らえられ、斬首台(=ギロチン)の露と消えるのです…。

と、何とも壮絶な内容(またも「あらすぎ」か?)。
神経質なブランシェの帰宅を家族が心配して待つ冒頭シーンから、本当に壮絶なラスト(後述)まで、緊張感に満ち満ちていて、この緊張と恐怖をプーランク独特の雰囲気の不思議な旋律が裏打ちします。プーランクファン(いや、ほとんど宗教曲系声楽曲しか聴いて/歌っていないのですが)には「どこかで聴いた?」と思えるようなサウンドがいっぱいです。

また、修道院モノということで、作中にラテン語の聖歌が沢山出てくるのも特徴。Requiem と一部共通のテキストを持つQui Lazarum resuscitastiや、Ave Maria(アヴェ・マリア)、 Ave verum corpus(アヴェ・ヴェルム・コルプス)といったメジャーな聖歌。

そして何より何より最後のシーンは15人の修道女がギロチンに1人1人歩みながら歌う、Salve Regina(サルヴェー・レジーナ)。とても生々しい、刃物が擦れ合う「ザシュッ」という音が響くたびに、歌い手が1人ずつ倒れてゆき、残り5人くらいで明らかに1人1人の声が聴こえる、薄い合唱になっていることに気づかされます。サルヴェー・レジーナの長い歌詞をこなしながらも、人数は着実に減ってゆき、最後に若いシスター・コンスタンスがラストの歌詞"O clemens, o pia, o dulcis Virgo Maria."を一人で歌い、無情にも最後の「マリーア」の「マ」だけ言ったところで、「ザシュッ」…。重いです。
#この「後」の仕掛けは、見た人のお楽しみにしておきましょう。皆斬られてしまうことに、かわりはないのですが…(涙)。

Salve Reginaの"Salve"はラテン語の「こんにちは」にあたる挨拶で、この曲のタイトルも「めでたし元后」と訳されることが多いのです。しかし、ここではこの動詞(辞書に載る1人称単数現在形はsalveo, 英語でbe fine)の本来の意味よりも、その関連語salvo(英語でsave、本当の命令形はsalva)から「救いたまえ」という呼びかけのイメージが強く浮かびます。「我らエヴァの子は涙の谷で、あなたを呼び、あなたに向かって泣き叫びます」という歌詞と、「いつかこの国に再び聖職者を招き入れるには、自分たちが犠牲となるしかない」という彼女らの決意が重なり、人類の罪深さと、それを見つめ救う「神」への思いがくっきりと描かれて終わるわけです。
この作品、1930年代からカトリック信仰モノの作曲を意識しだし、第二次世界大戦でいろいろ考えたプーランクの戦後の作品なのですが、フランス人である彼が、宗教を考える上で書きたかったことが直球勝負でぶつけられている感じです。

<DISK紹介(DVD)>
Dialogues Des Carmelites カルメル派修道女の対話 / Arthaus Musik 100 019
スコア選択: ★★★★★

プーランクの宗教曲好きは必見(せめて必聴)の、「カタい方のオペラ」代表作。ラストのSalve Reginaは怖いけど重いけど凄く心に響きます。

Francis Poukenc(1899-1963): Dialogues Des Carmélites カルメル派修道女の対話(1955/1957初演)
台本:Georges Bernanos
Philippe Agnostini と Reverend-Père Bruckberger の映画に影響を受ける
演出:François Duplat
Blanche de la Force(ブランシェ):Anne Sophie Schmidt
Orchestre Philharmonique de Strasbourg
合唱:Choers de l'Opéra national du Rhin
指揮:Jan Latham-Koenig
撮影:1999年、Opéra National du Rhin にて(ライヴ)





このディスク、日本語メニューと日本語字幕がついています。
作中のフランス語→日本語訳はかなり出来がよく、ストレスなくストーリーを追えるのですが、笑える突っ込みどころもいくつもあります。

・日本語字幕の出来は良いのに、日本語メニューがぼろぼろ。
  「プログラマ開始」って、何??「主要なメニュー」って…。
  生きた日本語で暮らしている人間がタッチしていないことはよくわかる。

・ ラテン語の聖歌のみ、原語で字幕表示されます。
  宗教曲歌詞お馴染み、の身としては、こりゃ「歌う人」のための字幕だな、
  と思っていたのですが…。最後の「アーメン」だけ、カタカナです。
  こりゃ、仏→日翻訳はできても、その人がラテン語わからなかっただけだな。
  アーメン以外…(苦笑)。

#しかし、このディスクも含め、「歌う人のための原語字幕」がないのは悔しいなぁ。
#最近のハリウッド映画の日本発売DVDにはほとんどあるでしょ、英語字幕。
[PR]
by cantotanto | 2004-10-19 01:19 | オペラ
<< この曲も癒される……? オルゴ... これは風邪か…? >>