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ブルックナーが込めたメッセージ。
いよいよカ○レ演奏会の当日となりました。
練習を進めながら、これだけはここに書いておこう、と思ってたことを書かないまま日付が変わってしまいまして(汗)。

ドイツの作曲家には珍しい、敬虔なカトリック教徒かつオルガニスト出身のブルックナーさんは、ミサ曲を書くにあたって結構真面目にテキストを扱っています。
聴いてわかるところ、うたって美味しいところをざっとご紹介。

・Credoのイエスの生涯説明、こだわり続ける
テキストが長い長いクレドですが、「父なる神を信じる」に続く「子なるキリストを信じる」くだり、「天から降りた」以降の時系列描写が実に丁寧。

「降りた」にあたる"descendit"は何らかの「下降」形で示されることが多いのですが、ここでは「降りた」感を出すために「音階で登ってから音階で降りる」という形で示されます。弦楽器がさらに降り続けて、最後は古いエンジンが止まるみたいにブスブスと停まってご到着。

「受肉」を示す"et incarnatus est"以降はテノールソリストと女声合唱、そしてVnとVlaのソロで神秘的に示すのは定番。「人になった」を意味する"et homo factus est"は男声が示して、一人の大人の男性としてのイエスが立ち上がる感じになります。受難のシーンもうまくつながりこれも定番を外しません。

で、凄いのは復活以降。聖書時代の出来事であるめでたい「復活した」「天に昇った」と未来である恐ろしい最後の審判に「やがていらっしゃるだろう」をつなぐ「(イエスが天に)座っている」という言葉("sedet")を3回繰り返し、この間に世紀末的な調性にじわじわと転調していきます。
さらに最後の審判になると「生きている人を裁くために」という"judicare vivos"をひたすら繰り返し(特にアルトに対する人使いが荒い)、今生きている人の恐怖をあおります(たぶんその狙い)。

あの長いテキストの中で普通の作曲家が敢えて強調しないところをふんだんに紙面を割いて丁寧に伝えています。この辺がドラマティックなので、ついて行けたら情景を思い浮かべながら、で、よろしくお願いします。

・Sanctusは3回言うものである。
こんだけ長いミサ曲なのに、Sanctusの冒頭語はお約束の通り3回に納めています。女声と男声の掛け合いで、各人ちゃんと3回だけ言うようになっている。これこだわってる曲意外と多くないです。

・こっそりイレギュラーな単語を挿入
ブルックナーが込めたメッセージ。_a0036057_126276.jpg最後の最後の盛り上がりで、「私たちに平和を与えてください」を意味する"dona nobis pacem"をひたすらたたみ掛ける。この終わりの女声の1回に"da pacem"ってフレーズが入ってます。
実はdaもdonaも同じ「下さい(英語でgive命令形)」なので意味は変わらないのですが、オーソドックスな典礼文テキストにはない単語を使って、このリズムを出したかったのではないかと思っております。

#キリスト教のラテン語は時代が下るにつれて合成語や長く変化した単語が好まれてまして(ミサ曲だとconsubstantialemあたりが典型)、もともと古典ラテン語ではda(辞書に載ってる1人称単数現在形はdo)のほうが普通だったものがその派生名詞donum(贈り物)あたりを経たdono(命令形dona)の方がよく使われるようになったみたいです。
##古めのテキスト、例えばVeni creator spiritusあたりではdaがありましたね。

合唱指揮のABセンセイには「あとは祈りが足りない」と言われました(大汗)ので、本番はテキストを尊重した真摯な気持ちで参りたいと思います。
さぁて、寝ますか。
by cantotanto | 2009-11-29 01:38 | 外国語曲のことばのこと
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